2Dアニメの立体視は夜明けを迎えるのか

11月22日には公式サイトがオープンしていたようですが、劇場版新作として「攻殻機動隊 S.A.C. Solid State Society 3D」が発表されましたね!イチ攻殻ファンとしても楽しみですが、ここ最近動画制作でどっぷり浸かっていた「3D」についても興味津々です。

すでにある素材から3D化する、というのであれば、一番相性がいいのは当然ピクサーが作るような3Dアニメですよね。2D的後処理の問題や目への負担、アーティスティックな深度の調整といったいくつかの課題がクリアできれば、とりあえずは既に作った素材をかなり活かせますから。
逆に未知数なのは、今回のような、(2D)アニメの3D化。「3D立体視変換」という微妙なキーワードが使われていますが、恐らくフル3DCG化としての再構築・・というアプローチではないはず(むしろ今の開示の仕方からみると、義眼(各種インターフェイスがオーバーレイされた、電脳の視点)を通して見たカットとかで、部分的にこの手法をとってそう)。とすると、もとの「SSS」完成直後の段階では、伝統的な、背景やキャラクターをそれぞれ描いた2Dデータしか素材は存在しないわけで、これをどう3D化するか・・。これに真正面から取り組んだ映像作品は、個人的には見たことがないです。


すぐに考えられるのは、もとのレイヤー(データ)の重なりをそのまま平行にZ軸上に並べるやり方かな。基本的な概念としては、上記の義眼カット以外ほとんどはこのやり方で「3D立体視変換」をするはず。破綻なく、かつ追加のリソースを最小限に抑える方法ですね。でも、考え方はカンタンとはいえ、実際の立体視化は単純作業とは行かなそうです。
まず、上にも書いたとおり、各レイヤーの順序は決まっているとしても、それぞれをどれだけ浮かせるか(沈ませるか)は単純な変換は出来ません。むしろ、3D化にあたっては、今後この部分がその作品の味になりそうな予感がするくらい。要は、人物と背景の2レイヤーしかない場合を考えても、「2つとも飛び出ている」「ほとんど離れず中くらいの距離にいる」「手前と奥でものすごく離れている」といった組み合わせは、すべて別の意味を持ってくる、ということですね。ここらへんは、以前自分が動画を作った際につらつら考えてみた日記があるので、ご参考になれば。個人的には、全体として素材をスクリーンより手前に押し出すか、それとも奥に押し込めてまとめてくるか、という点にも注目したいですね。現在試験的に放送されている3D番組では、基本的にはすべてスクリーン奥にまとめる姿勢みたいですが、それが果たして「正解」かどうか分からないですし。・・いや待てよ、例えば、ほとんどのカットはスクリーンより奥に見えるようにまとめておいて、義眼カットでは内部UIをスクリーンより手前に配置すれば、かなりサイバー感が強調されて楽しめそうかも!?結構ありそうな話ですね(笑)。
ちょっと話が逸れましたが、他の課題としては、2Dで重ねる分には、各データの解像度は統一されているか規格化されているかで、制作上あまり気にしないですむスキームができあがっているんだと思いますが、3Dに並べることを考えると、これがそのまま使えなさそうですよね。奥に配置する素材は、そのまま3D上で奥に配置されるとちーっちゃくしか見えないので(笑)、見た目として同じ大きさに見せるためには何倍にも引き延ばさないといけません。でも、これをそのまま拡大すれば相対的に解像度は下がるわけで。最終的なレンダリング結果がとんとんになれば問題ないですが、特に劇場版とかシビアな条件を考えると、ボケボケになったりジャギー感が微妙に出たりして、結構ここらへんの解像度の問題が表面化しそうな気もします。扱うデータサイズも飛躍的に大きくなりそうだし、作成時の負荷とかは?・・いや、実際は全然問題なかったりするのかもですが、どうなんだろ・・。


ということで、ここまでは、「2Dのデータをそのまま使えばラクかもだけど、それなりに大変そう」というお話でした。さて、このアプローチと、3D素材への置き換え以外にも、やりようはあるのか?考えられるのは、この2つのアプローチの中間、「2Dデータの分割・多層化」。
今まで書いたアプローチだと、確かにレイヤー間では距離感の違いが出て、立体的には見えるのですが・・相変わらず、キャラクターは一枚の板のようだし、背景も、のぺーっとした書き割り状態。これだと、カットによっては結構違和感が出そうですよね。なので、一枚のデータの中でも、手前や奥といった位置関係で、さらにいくつかに分割して、改めて3D上に距離を離して配置すると、違和感を抑えることができそうです。
「レイヤーを分割して配置しなおすだけで立体のバリエーションが出せるなら、やりゃいいじゃん!」と思ってしまいますが、実はここには落とし穴があります。立体視の基本原理は、右目で見た映像と左目で見た映像で、対応する2点の距離が変化した場合に、それが奥行き情報として置換されるわけですよね。つまり今回のように、分割して離したレイヤー間でも、右目で見た場合と左目で見た場合の映像では、2者間の距離が離れるわけです。これは何を意味するか?
・・隙間が出来てしまうんですねー。試しに日の丸を考えてみるとわかりやすいのですが、今回のアプローチは、日の丸を、赤い丸と、それを囲む(穴の空いた)白い部分の2つに分けて、赤い丸を手前に(視点近くに)持ってくる・・というものです。で、今、左目をつぶって、右目だけで、ちょうど白いパーツの穴が空いたところに赤い丸がくるように、赤い丸を移動させて、サイズも穴にぴったり合うよう、少し縮小してみます。そして、それを今度は左目だけで見てみると・・ずれてますよね。右目ではぴったり重なっていても、左目から見ると、白いパーツに空いた穴がチラリと見えてしまっているはずです。翻ってこれがアニメの2Dデータだとすると、穴がチラチラ見えたままには出来ないから、これを補完しないといけない。でも、もともとアニメーターのかたをはじめいくつもの人・行程を経て完成している2Dデータを、カンタンに「補完」なんて、多分できないですよ。
ということで、実際にこのアプローチを使うとなると、新規に複数レイヤーに分けたアニメーションとして作り直すか(上記の例なら、一枚の日の丸ではなく、真っ白な長方形の生地と赤い丸を用意しなおせば隙間はできない)、背景など目立たず動きが少なそうな部分だけに適用するか、なんにせよ限定的な使用に留まるのかな、と思います。


そんなわけで、こんがらがりそうな頭を整理しがてら、またつらつらと書いてしまいましたが・・とにかく、最初にも書いたとおり、もともと2Dで作成したアニメを3D化するというのは、今までほとんど例がないはずで、このいばらの道(笑)をどう突き進んだのか、ほんとに知りたくてワクワクしますね。完成した作品の表現力や反響によっては、「立体視できる2Dアニメ」(なんか違和感あるネーミング)というジャンルが勃興するかもしれません。さらにいえば、上で述べた「2つのレイヤーでも配置の仕方でメッセージが変わる」というような、3D的シネマトグラフィー?はまだ世界的にも確立していないと思いますが、今回の作品がそのいくつかの地平線を開拓してしまうんじゃないか、とさえ期待しています。


・・・どうなるかな。本当に楽しみです(笑)。もしキャラも含めて完全に3D化するアプローチであれば、それはそれで見てみたい。それでしか表現できない表現も存在するでしょうからね。