「ねぇ、マスター。」3D版動画作成日誌 A01冒頭編

それでは、実際に1パートずつ設計を行っていきたいと思います。各パートが曲のどの部分に当たるかは、6月2日の日記(d:id:OIE:20110602)をご参照ください。


なお今日以降、実際に作成している際のスクリーンショットを掲載する場合がありますが、公開中の動画でミクのイラストに当たる箇所は、別の画像に差し替えてあります。少し分かりにくいかもしれませんが、ご理解いただければと思います。(ピアプロでお借りしたイラスト作品は、あくまで動画上でのみの利用が前提と認識しているため。)

3D化スタート!

最初に取り組むパートは、時間軸としても最初のA01にしました。なぜなら、全体を通して基本的に動きが少なく、作成手順や立体視したときの見え方などを確認しながら作業を進めるのに適しているためです。また、曲の最初ということで、音楽と同じく、まずはマイルドな立ち上げでこのパートを作成し、残りのパートに対する基準点として一度形にしたかった、という思いもありました。

さて、AfterEffects (AE) 上での設計ですが、実は2D版作成時にすでに3D上に各レイヤーを配置済みだったりします。カメラを原点とすると、ミクまでのY座標(深さ)上の距離は1000、そして基線長(左右のカメラ間の距離)は124。この距離は、前回の日記(d:id:OIE:20110603)で仮定した視聴環境下だと、ちょうどディスプレイ上で光軸が交わる(輻輳する)ようになるはずです(計算が間違っていなければ・・)。なぜこうしているかというと、既出の参考書「3D立体映像表現の基礎」の5.3.2節、『眼精疲労と視覚系の不整合』として取り上げられているとおり、目自体のピント合わせの機能(調整)と輻輳が不一致を起こさないようにするためです。このパートの場合、動画の中心となるのはミクのイラストになりますが、映像中の大きな面積を占め、かつ長時間に渡り表示され続けるため、このミクを対象として輻輳と調整が一致すれば、それだけ目の疲労を押さえられると考えられます。

ピントを外す演出と効果

カメラのピント距離は、同じく1000。このため、ブラー効果を上げてもミク自体にはピントが合い続けることになり、これは前出書の5.4.4節、『被写界深度と融像範囲』で取り上げられているように、ボカシを入れることで、立体視できる対象範囲(融像範囲)を必要に応じて調整できるようにするためのひとつの仕掛けです。(もちろん、映像表現の本来の意図と合わせるべきですが。)

実はこれ、早速A01の冒頭で早速活用しています。この動画の始まりは、真っ暗な状態からミクと背景がブラックインする演出ですが、このときミクは同時に、徐々に縮小しながらピントが合うような見え方をしていると思います。AE上で何をやっているかというと、カメラ自体が、ミクから近い場所から規定の場所へスライドしており、最初はピントが合っていないんですね。
もしここでピントが合ってボケていないとすると(AEではボカシを入れるかどうかとボカシの強弱を、カメラのオプションで設定します)、フレームに入ってくるミクの映像がうるさくなってしまい、立体視上も手前から入ってくるため(カメラが近い状態だから)、かなり目立ってしまいます。ということで、ここではあえて少し強めにボカシを入れることで、導入部分のミクが適度に目立たないような調整を行いました。


・・ということで、まずはA01の冒頭部分を進めてみました。次は、A01の残りの部分を作成していきます。