奥行きが与える表現の幅

今回はなんというか、3Dから2Dへの圧縮と、2Dから3Dへの展開のお話。


先日の日記の通り、「無限トランスファア」のPVについて、ニコニコ動画で公開していた2D版に加えてYouTubeで3D版を公開させて頂きました。んで、そのとき少し書いたとおり、3D版で立体視をすると、ちょっと印象が変わりそうなカットが1カットあります。気づかれました?ごらんになっていない方は、間違い探しのノリで、ぜひ探してみてくださいね(笑)。

2D版(ニコニコ動画http://www.nicovideo.jp/watch/sm12447558
D

3D版 (YouTube) http://www.youtube.com/watch?v=nElZSPkTLQE
(ごめんなさい、3D版がリンクだけなのは、埋め込みプレイヤーだと「3D」のオプションが選択できないためです)


見る人によって感じ方はまちまちだと思いますが、答えというか、意図的に調整を行ったのは、0:47 から 1:05 あたりの、暗い背景にミクとハートが輝いているカットです。
・・このカット、2D版だけを見た場合だと、背景のほうはそれほど強烈には意識が向かないと思うんですよ。手前に主役のミクが明るく見えてるし、「なにかパーツが動いている」くらいの認識がちょうどいい。


では逆に、3D版だとどうか?背景は背景としての役割で変わらないけれど、より個々のパーツの「動き」が目立ってくるんじゃないかと思います。それと、文字通りの「奥行き」感ですね。



実は、このカットで使われているパーツはすべて、(仮想的な)カメラからの距離が異なって配置されています。この記事につけた図は、ステージを真上から見たものですが、下の方に見える箱がカメラ、明るめの水平の線がミク、そして、その上に広がるたくさんの青い線が、それぞれ背景を構成する平行四辺形のパーツです。


3D版だと、カメラからの距離がはっきり認識できるため、背景のデコボコが分かるし、ときどき現れる隙間を見れば、個々のパーツが結構なスピードで動いていることも直感しやすい。でも逆に、2D版だと奥行きという手がかりが「圧縮」されるため、パーツのバラバラ感や背景自体の存在感も薄められます。


ここでの主張は、別に「2Dだと情報量が少なくなっちゃうよ」ということではないんです。重要なのは、2Dだと「圧縮」されていた情報や感覚が、3Dだと「展開」することができる、ということ。そしてその圧縮・展開率やタイミングは、(恐らく)慣れればコントロール可能だ、ということです。今回あえてこのカットをこのかたちで作ってみたのは、2Dと3Dで、完全には破綻することなく、異なる意図やメッセージをインプリメントすることが可能かどうか、試金石として実践するためでした。

このカットの歌詞は、以下の通りです。

消えそうなキャンドル抱えて 見上げてみても
流れる世界の中
どこにいけるの? どこにいきたいの?
答えりゃしないけど (Jump to there!)


2D版の、背景が目立たない形であれば、相対的にミクやハートの「暖かさ」と、ゆらめくキャンドルのような光が強調され、総合的には「安定感」が前に出ます。逆に3D版で背景が大きく動く世界観では、文字通り「流れる世界」のなかで、小さな自己の存在がゆらめくことになり、こちらは「不安定感」が強められます。

両者は、曲の中で逆の役割を持ってしまうわけですが、次のサビに向かう前の「タメ」としては機能するため、どちらの場合でも大きな違和感はないと思います。2D版であれば静から動のコントラスト付けになるし、3D版であれば気持ちの揺らぎをサビにぶつけることになる・・という感じかな。


今回の試みがどこまで成功しているか、自分ではなんとも自信を持って言えないところです。が、やってみて思ったのは、情報の圧縮と展開というのは、コントロール可能なのであれば、ひとつの表現手法に成りうるんじゃないか、ということですね。

ある意味、今回やったことは、トリックアートそのものだったりします。2Dで見ると違和感がないのに、3Dで見ると(視点を変えると)全然違う。あのワンダー感を、実は3Dだとうまく演出できるんじゃないかという気がします。今回は2D版と3D版の比較として使用していますが、3D作品に限定しても、例えば全編に渡ってトリックアート調の動画作品というのもおもしろそうですよね。一見違和感がないのに、奥行き感がどうもおかしい。で、視点が動くと実際の配置が分かって、「ああやっぱりね」、みたいな。
トリックアートにこだわらず、この、疑問と解決のプロセスを音楽と組み合わせると、今までにない、結構おもしろい作品になりそうな気がするんですが・・。


ちょっと話をふくらましすぎましたが(笑)、3Dについては、曲や世界観次第で、今後もまた挑戦したいと思ってます。