はやぶさペーパークラフト(熟練者バージョン)作成Tips


先週くらいから、夏休みに入った学校も多いそうで。そんな夏休みの自由研究や工作にもピッタリ(笑)な、小惑星探査機「はやぶさ」のペーパークラフトのご紹介です。実際のところ、この6月に地球に帰還した話題性もさることながら、プロジェクトの意義やイトカワの素顔、さらに拡げて太陽系や宇宙の成り立ちまで、ストーリー立てて研究をすることが出来るし、かなりいい題材かも?(まぁでも、自分が小学生のときだと、ここまで系統立ててまとめる発想はできませんでしたが・・)

このペーパークラフトJAXA様はやぶさプロジェクトのページ内、「はやぶさ」関連情報一覧->「ISASサイト内情報」内の「はやぶさペーパークラフト から辿ることが出来ます。公開されているのは、簡単バージョン、難しいバージョン、それに熟練者バージョン(β版)の3つ。難しいバージョンは4時間もあれば十分作ることが出来るため、夏休みというよりは週末のホビー的楽しみ方に合っていますね。

で、今回取り上げるのが、一番最後の「熟練者バージョン(β版)」。掲載されている写真を見れば判るとおり、相当細かなところまで、実際に宇宙を飛んだ「はやぶさ」の姿を再現してくれます。

しかし、ここで立ちはだかるのが、その緻密さ故の作業量と難易度。これ、相当な歯ごたえです。私はこれを作るのに70時間かかりました(笑)。今年1月中旬から初めて2月の終わりまで、1日平均1-2時間ずつ作業した感じですね。いきなり脅すようなデータを出してしまいましたが、後述の通り、公開データ通りに作ればもっと短くなります。さらに、タイトルに「熟練者」と入っているのに、不器用な上今まで数個しか作ったことがない自分が無謀にも(笑)チャレンジした結果なので、手先が器用な方や、ペーパークラフトで腕に覚えのある方ならさらに短くなるはず。夏休みでこどもが一日1時間くらい取り組んで、土日は親御さんが手伝ってあげたりすると、1ヶ月くらいでできるかもしれないですね。工作としては十分すぎる題材だと思います(笑)。



完成イメージですが、最終的に作り上げた動画の完成形を見て頂くと、いろんな角度からその姿を確認できると思います。

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実際に作成した大きさは、こんな感じ。大きさの比較対象に、CD-Rを並べてみました。PDFデータそのまま・・の97%の大きさです(A4印刷時に縮小されてしまったため、こんな大きさ)。

作っている間は時間に追われていたため、残念ながら作成段階の写真や資料を残すことができませんでした。。ここでは、カスタマイズの方法も含め、実際の作成に参考になりそうなトピックを思い出せる限り挙げていきたいと思います。

各部名称の把握

公開されているPDFデータから作り始めるのに、まずつまずくのが、「パーツを本体のどこに貼り付ければいいか判らない!」というワナ。ここは実にベータ版のつらいところで(笑)、各部の展開図と名称は併記されているものの、構体(胴体のような、ほぼ直方体の部分)側にはそのアウトラインしか示されていないため、「フラッシュ電源部」や「中利得アンテナ」など、一見するとどれがどれだか混乱しやすいパーツがあります。一番早い解決策は・・「はやぶさ」を勉強すること(笑)。プロジェクトページなど、各所に図入りの名称の情報が散らばっているので、これを集めていくとだんだん、各パーツの場所と役割が判ってきます。そう、カッターを手に取る前から、すでに作業は始まっています!
(余力があればこちらでも各パーツ名の紹介をしたいのですが・・まぁ、パズルのような気分で(笑)調べる過程も楽しいものですよ。)
【2010/08/09 追記】7月に刊行された、山根一眞著「小惑星探査機 はやぶさの大冒険」の表紙めくってすぐのページに、はやぶさの各部位の名称がイラスト付きで掲載されています。ペーパークラフトで作成するほぼすべてのパーツが確認できるので、よろしければご参照を。

小惑星探査機 はやぶさの大冒険

小惑星探査機 はやぶさの大冒険

構体からのアウトライン消去

今回、構体部を作る基本的な戦略として考えたのは、以下のようなもの。まず衛星構体を、ある程度丈夫な素材で直方体の骨組みとして作ります。これとは別に、一回りだけ大きい構体の展開図を用意し、これにフラッシュ電源部やロケットインタフェースなどのパーツ、さらに側面の銀色の領域などを貼り付けます。最後に、骨組みを包み込むように展開図を組み立てれば完成!(実際には太陽電池パドルや科学推進スラスタなどをこのあとに接着しましたが)。
なぜ、組み上がった構体上で直接パーツを貼り付けないかというと、外観をリアルにしようと考えたときに、構体にパーツを貼り付けるためのアウトラインをあきらめざるを得なかったためです(よっぽどキッチリ各パーツを作り込まない限り、構体とパーツの隙間にアウトラインが見えてしまう)。アウトラインがないとなると、直接貼り付けるときに、なんの手がかりもない直方体の上に正確にパーツを配置しなければならず、・・これはほぼ無理。ということで考え出した案が、上記の通り、あらかじめ展開図上でパーツを貼り付けておいて、これをクルッと骨組みの上に巻いてしまおう、という作戦。パーツを貼り付ける際は、ライトボックスの上に、「展開図(アウトライン入り)」->「展開図(巻き付け用・アウトラインなし)」の順に重ねて、アウトラインがすけて確認できる状態にします。これで、アウトラインの印字なしで展開図上に正確にパーツを配置することが出来ます。ライトボックスがない場合でも、窓ガラス越しの太陽光でも代用が出来るかもしれません。
・・ただ、ここまで書いたとおり、外観からアウトラインを消そうとした瞬間から、手間(と、場合によっては機材)が爆発的に増えます。確保できるリソースによっては、上記の展開図作戦はあえて使わないのもありだと思います。

工具の調達


上の写真が、今回の製作で使った工具の(だいたい)一覧です。上述の通り、私はペーパークラフトはほぼ素人のため、これがベストのものかはわかりませんが、必要になったものをそろえているうちにこうなった・・という感じですね。
まずは工具について。なにはなくとも最初に、カッターとアルミ(鉄)定規、それにカッターマットが必須。ある程度の長さをまっすぐに切るためにも、また細かいパーツを正確に切り出すためにもこれだけは必要です。ただ、ギザギザに切れ込みを入れるところなど、場面によってはハサミのほうが楽に乗り切れる場面もあるので、オプションであると頼もしいですね。アルミ定規は20〜30センチの長いものと、10センチくらいの小さいもの2つがあると使い分けが出来ますが、長いのだけでもなんとかなります。
木工用ボンドはほぼすべての貼り付け用に。・・小学校の図画工作のときとか、あんまり乾きが速くないイメージだったのですが、少量であれば意外に速く乾きます(しかも透明)。例外は、下の写真のサンプラ(黒い筒の部分)。伸展用のワイヤー(?)を再現するため、糸にうすくプラスチックのりをつけて、筒の上から螺旋状に貼り付けています。

ピンセットも、細かいパーツ相手にはどうしても必要です。つまんで移動させる用途にはもちろん、まっすぐに折り目を付ける目的にも多用。今回使ったピンセットのセットには、先端の形状のバリエーションのほか、「力を抜くと閉じる」という、ふつうとは逆向きのピンセットもありました。つまり、手を離すとパーツをつまんだままの状態になるので、設置せずに中空でパーツを乾かす使い方が出来ます。
写真に出ている工具のうち、ニッパーは通常は必要ありません。後述の、カスタムの太陽電池パドル(羽に当たる部分)を作る際に、写真左端の針金を切るために使ったものです。
工具ではないですが、写真右上のような、作ったパーツを区分けできるケースもあったほうがいいでしょう。これは100円ショップのものですが、意外にたくさんバリエーションがありました。
また、工具類の下に見えているのはライトボックスです。上の「構体からのアウトライン消去」で述べたとおり、展開図上でのパーツ貼り付けで威力を発揮しました。(動画合成用の「はやぶさ」の写真を撮影するときの照明としても大活躍。)

材料の調達

動画や写真の通り、この作例では実際の「はやぶさ」により似るよう、複数の素材を貼り付ける形で構体を作成しています。動画上で違和感なく合成するためどうしても必要だったのですが、おかげで宇宙を背景にしても意外にしっくりくるくらい(笑)リアルになったかも?と思っています。
材料は、基本的にはお好みで。好きな外観になるような素材を選ぶのがいいわけですが、構体や、太陽電池パドルアームなど、強い力が加わるパーツには厚めの紙を利用した方がいいでしょう。ただ、丈夫な紙はたいてい重量が大きいため、他のパーツにも負荷がかかります。太陽電池パドルとそのアームは、構体と同じ素材で作るのが無難です。
一応ご参考として、今回自分で作成した「はやぶさ」では、以下のようなものを使っています。

  • 構体を覆う金箔・・プレゼントなど包装用のペーパー
  • フラッシュ電源部などの銀色の金属部・・いろがみの銀色
  • 科学推進スラスタやサンプラなどの黒・・黒色の厚手の紙
  • 再突入カプセル・・いろがみの金色
  • 構体の骨組み、高利得アンテナなど・・ペーパークラフト用プリント用紙
  • イオンエンジンまわりの銀色・・アルミホイル
  • イオンエンジンのグリッド・・茶こしのあみ
  • レーザレンジファインダのガラス部・・赤いフィルム
  • 太陽電池パドル(発電部)・・ペーパークラフト用プリント用紙にフィルムを貼り付け
  • 太陽電池パドル、アーム内部・・針金

アルミホイルは、表裏どちらも銀色のため、イオンエンジン周りのパーツにはもってこいなのですが、加工がしにくいのが難点です。グリッド用の茶こしのあみは、見た目は意外にマッチしたのですが(笑)、加工中に細かい金属くずが発生して、ちょっと取り扱いに注意が必要でした。

太陽電池パドルが2枚重ねになっているのは、青色の素材の上に、太陽電池特有のグリッド上の模様をプリントしたかったため。これならどんな青色素材でも模様を再現可能なのですが、今回はピッタリはまる青色素材を見つけることが出来ず、最終的にはプリント用紙に青色を印刷したものを使っています。太陽電池のような光沢を出す紙を探したんですけどね・・。
異質なのが、一番最後の針金。これは表面上は見えません。次の「太陽電池パドルの厚み出し」で説明します。
ということで、いろいろなパーツを利用してみましたが、一つ言えることは、材質を変えると、基本的に加工がしにくくなる上、強度のバランスが悪くなる、ということです。公開されているデータは、厚手の紙で統一して作られることを前提にしたものだと思うので、これの通りに行うのが一番無難です。ペーパークラフト用のプリント用紙は、PC周辺機器メーカー等から何種類か発売されているので、これに展開図を印刷して組み立てると、トラブルなく完成までいけると思います。

太陽電池パドルの厚み出し


動画ではいろいろな角度から「はやぶさ」を撮影しましたが、上記の「材料の調達」だけでは解決できない問題が、検討段階から明らかになってきました。もっとも大きな問題は、太陽電池パドルの厚み。公開データでは紙1枚のパドルを、矩形型に折り曲げたアームで支える構造になっていますが、実際には当然、厚みのあるパドルをしっかりしたアームで支えているわけです。上(高利得アンテナ側)から見たときは問題がなくても、横から見た瞬間に厚みがないことが判ってしまうため、表現力をかなり損なうことになります。
そこで考えたのが、パドルの1枚紙の裏に、厚みを示すパーツを黒い紙で作り、それを貼り付ける方法。さらに、1枚に見えるパドルですが、打ち上げ時には3重に折りたたまれて収納されていたものを拡げた姿なので、実際には3つのほぼ正方形なパーツが縦に並んでいる状態であり、間には薄い隙間があります。これを再現するため、裏に加えるパーツも3つに分け、裏面から見るとデコボコがはっきりと見えるようにしました。
結果は良好!横から見てもよし、下から見てもよし・・となったのですが、パーツを加えたことでパドルが一気に重くなり、支えとなるアームが紙一枚ではもたなくなってしまいました(しかも材質を変えて銀色のいろがみ一枚だったので、まったく歯が立たず)。そこで今度は、アームをいろがみ2枚で貼り合わせる形にし、その間に針金を通して、さらにその先をパドルの中に通すようにしました。・・つまり、パドルから構体側面まで、パドル内部とアームを貫くように針金を通してしまったわけです。
さらに。パーツが3つも加わったことで、パドル自体も縦方向に大きくたわむようになってしまいました。これを支えるため、背骨になるような針金をまた、縦方向に左右それぞれ2本パドル内部に通しています。

ロケットインターフェイス強化の勧め

下側(サンプラや計測機器がならんでいるほう)から見たときに特徴的なパーツが、このロケットインターフェイス。大きい丸い輪っかですね。実際の打ち上げの際に本体を支えていただけのことはあり、このペーパークラフトでも、ここをしっかり作っておくと、他のパーツに干渉しないかたちで安定して接地できるので、ぜひ強化しておくことをおすすめします。具体的には、厚めの紙を1〜2枚使い、もし材質を変えるのであれば輪っかの内側・外側両面にその紙を貼り付けましょう。特に作業中は重宝しますよ。今回の作例でも、太陽電池パドルは展示スタンドでそれぞれ支えていますが、構体は土台の上に直置きして支えています。

ターゲットマーカ押さえの形状

ロケットインターフェイスの内側に3つ並ぶのが、ターゲットマーカ。このターゲットマーカ自体も別パーツとして用意されていますのが、ちょっと問題なのが、これと構体とをつなぐ「ターゲットマーカ押さえ」というパーツです。公開データでは折り目を3つ入れるよう指示されていますが、これだとどうしても押さえとして機能するような(ターゲットマーカが着脱できるような)形状にできませんでした。。私自身の解釈では、元データの3つの折り目は無視させてもらい、カタカナの「エ」の形になるよう6つ折り目を付けて(「エ」の左下から上辺を経て右下へ)曲げてあげると、「エ」の上の辺にターゲットマーカの隙間を挿入することで、いい具合に着脱できるようになったのですが・・正解はどうなんでしょう?

中利得アンテナAの構造

組み立て時にもっとも混乱したパーツの一つが、この中利得アンテナAです。作成手順を説明すると・・
・支持部を切り出し、折り曲げる。このとき、左右に並んだ2つの円はくり抜き、向き合うような形になる。
・2つの円の間に、回転軸を通す。回転軸の両端は、給電部を貼り付けるためのモシャモシャしたのりしろがあるはずなので、これは支持部の外側に出るようにする。(こののりしろと支持部はのりづけしないこと!)
・左右の給電部を、さきほどののりしろに外側から貼り付ける。はみでたのりが回転軸の動きをじゃましないように注意。
以上のようなかたちです。ちなみに、中利得アンテナAは正面側(再突入カプセルがある側)ですよ。

ミネルバの作成

上の、工具類が並んだ写真に、実はミネルバが写っています。「はやぶさ」のすぐ下に写った、2つの小さな丸、これがミネルバ。なぜ2つあるかというと、右側が「はやぶさ」と同じ縮尺のもので、左が撮影用に少し大きく作成したものだからです。ミネルバの特徴的な形状として、輪っか上に並んだ針金のようなパーツがありますが、「はやぶさ」と同じ縮尺のものではあまりにも小さく、これを再現できませんでした。そのため、少し大きいミネルバを作り、これに実際に針金を通したものを撮影に使用しました。ミネルバ内部にはスポンジをきつめに詰め込み、さした針金がうまく留まるようにしてあります。


ということで、いかがだったでしょうか。大部分は、撮影用に手を加えた結果とたんに問題が発生->これに対処->新たな問題が発生・・といった歴史の顛末です(笑)。各トピックでも述べたとおり、一番シンプルで確実なのは、公開されているデータを、丈夫な紙に印刷し、指示通りに組み立てることです。これであれば、製作時間は大幅に短縮できるはずです(自分の作業を振り返ってみても、70時間から10-20時間くらいまで短縮できそうな気がします)。撮影用ではなく、研究用や展示用といった用途であれば、逆に指示通りに作成したもののほうがわかりやすいでしょう。用途や時間といった判断基準で、ぜひあなたに一番合った「はやぶさ」を作ってあげてください。パーツ数も多いだけに大変ですが、作る楽しみもできたあとの喜びもひとしおですよ。


最後に、このようなペーパークラフトデータを公開されたJAXA様、ISAS様に深く感謝いたします。私自身、本当に楽しい時間を過ごさせて頂きました。