The Steinberg Day 2009 メモ

去る5月23日に開催された、「The Steinberg Day 2009」東京会場のメモです。参加した直後の日記(d:id:OIE:20090523)のとおり、大阪会場開催に合わせてこちらに公開しました。今回はセッション中心でご紹介。

各種展示

大きく分けて、Cubase 5/Sequel2 のソフトウェア、MOTIF XS や MR816CSX、CC121 といったハードウェア、ヤマハ/Steinberg 以外の各社から発売されているVSTプラグインの、3カテゴリーが展示され、各製品ごとに用意された小さなブースに説明員の方が配置される形。会場にはかなり多くの参加者がいましたが、人混みで後ろから製品が見えないというようなこともなく、かなり気楽に製品に触れられていたように見受けられました。(各展示ともまんべんなく。)
ほか、東京会場限定だったようですが、Cubase 5 の攻略ブックとDVD などを扱った、販売ブースもありました。

デモコーナー

違う名称だったかもしれませんが・・トークセッションの合間を縫う形で、セッションが行われたスペースの一部で各種デモが行われました。内容は時間順に以下の通り。
Cubase 5 の新機能の紹介(LoopMash, VariAudio, PitchCorrect を中心に)
Cubase 5 とハードウェア(CC121/MR816CSX/MOTIF XS)との連携
・Sequel 2 を用いた曲作り
どれも30分という短い時間でしたが、各テーマに沿って要点をまとめ、デモプレイを交えてきっちり説明されたいたのが印象的でした。さすがインストラクターの方々(笑)。

トークセッション

Steinbergヒストリー&スペシャルインタビュー

まずはSteinbergとそのソフトウェアの歴史、さらに現在のSteinberg社@ハンブルグの紹介。その後、中田ヤスタカ氏、渡部高士氏、中西亮輔への、Cubse/Nuendo シリーズとCubase 5 についてのインタビューが流されました。インタビューの内容については、会場で配布されていた「25th ANNIVERSARY BOOK -Steinberg社 25年の歩み-」にうまくまとまっているので、ここでは割愛(笑)。
ただ、このあとのトークセッションでも出てきた話ですが、Cubase シリーズの特徴として、「その時代における革新性」と「一台で完結できる統合環境」を魅力として挙げる方が多くいらっしゃいました。また渡部氏については、Cubase において操作対象の単位となる「箱」について細かく言及。この魅力は「ほか(のDAW)から移ってきた人は最初は気付かない」と言われていました。(まさに自分がそれかも・・。使いこなせるよう精進せねば)

今、Cubase 5 を選ぶ理由

大島崇敬氏によるトークセッション。はじめにデモ曲を紹介し、そのプロジェクトファイルを表示されましたが・・。ミキサー上部には各トラックともインサーションエフェクトが8段すべて埋まっている状態。驚異の「八段掛け」ということですが、こんなの初めて見ました(笑)。
大島氏が強調していたのは、Cubase 5 がクリエイティブな発想を形にするための器として優れている、ということ。上記のような、一見無謀に見える(笑)エフェクトのかけ方でも問題なく動作するし、操作のレスポンスやステレオ・モノラル素材の混在など様々な環境にも対応できる。他のDAWでは「この部分が優れている」という点が強調されるが、Cubase はすべてが揃っている点に価値を感じている、とのことでした。このような製作環境はアレンジングにも影響し、普通は要素を削っていく作業の進め方を行うが、Cubase の中では優秀なオーディオエンジンも功を奏し、要素を追加させていく形で進められ、よりクリエイティブに活用できる。だから、Cubase ユーザの方には、音楽的な妥協をしてほしくない・・。以上が、大島氏のCubase への想いと参加者へのメッセージでした。
ちなみに「八段掛け」の中身ですが、まず初めに音作りとしてHPF/LPF的なEQなどを挿入。その後ある程度他のトラックも整ってきたところで、改めて今度は「調整」としてのEQを挿入・・というような使い方をしていると、あっという間に八段は埋まってしまうとのことでした。(普通は、最初にかけたEQを再調整することで、新しいEQの追加をためらうところです)

私感ですが、なんかこの辺りの感覚、個人的には Photoshop のレイヤーと似ているのかな、と思いました。あちらも、処理の軽さ(というより堅調さ?)や調整レイヤーといったオプションのおかげで、がんがんレイヤーを追加していけるし、その環境自体が作業のプロセスや考え方に大きく影響しますよね。ただ、レイヤーを足していくことをよしとする人もよしと思わない人もいるわけで。このあたり、要素をどれだけ追加していくかについては、個人に合うスタイルを探すのがベストでしょう。
(もちろん大島氏も、エフェクトをただ追加することを推奨しているのではなく、それだけの包容力を持つCubase の魅力を伝えたかったのだと思います。主なトラックすべてに八段掛けして曲が破綻しないというのは、実はものすごいハードルの高いスキルなのでは・・。)

Cubase 5 を用いた最先端のトラックメイキング術

まずは「FILTER KYODAI」としてのライブからスタートした、江原正晃氏によるステージ。タイトルの通り、トラックメイキングのコツをCubase 上での操作と絡めて説明され、江原氏の小気味いいトークと進行が冴え渡るセッションでした。それぞれのコツのタイトルと内容を、簡単に紹介します。(細かな操作対象・内容は省きます、ごめんなさい!)
・低音トリートメントをする
曲製作の始めのうちに、ベースがちゃんと低音まで出ているかを確認する。
・疾走感のないトラックにならないために
打ち込みがスクウェアな響きにならないよう、ディレイを試してみる。
・音色は動的にコントロールせよ
フィルタのパラメータ変化によって、繰り返しのフレーズでも曲に流れをつけられる。
・効果音、SE(SWOOSH)は自分で作ってみよう
例えばSwoosh(リバースシンバル系SE)は、アナログ系シンセでノイズ+Cut Offオートメーションの組み合わせで作成可能。
・LOOP MASH でグルーブを作ろう
何かほしいなと思ったときに。楽しくて時間が飛んでしまうので注意!
・マスターフェーダは絶対にいじらない
音質を損なわないためにも、フェーダーではなくリミッターで対処。
・マスタリングは書き出してから
マキシマイザ等で調整。音圧を稼ぐことイコールマスタリングではない。

Cubase は使い方次第で自分のワークフローを作り上げられるし、どんな音楽にもフィットする。無数のプラグインもあるので、自分のワークフローに合わせて足してほしい、とのメッセージでした。

Cubaseによる映画音楽の世界

寺嶋民哉氏を、青木繁男氏がインタビューする形式のセッション。アマチュアの時代から20年以上にわたってCubase シリーズを利用されているとのことです。使い始めたきっかけは、Cubase の前身である「24」利用時に自作していた、曲の展開を時間軸で表す表そのままを、Cubase が画面上で実現していたから。今でも利用している理由としては、昔から基本的な画面も変わらず、慣れという要素もあるが、軽快な上、MIDI用途の出来もよかったから、とのこと。
続いて、ゲド戦記の作曲をされた際の実際のプロジェクトを開いてのインタビュー。再生すると、East West社のオーケストラ音源から出る音と同時に、劇中の実際のシーンがタイムコードつきで再生されました。トラック自体は100列以上並んでいるものの、これはあくまで各パートを入力するための器としてテンプレートとして用意しているものだそうです。またスコアエディタを積極的に利用しており、ピアノ(p)やスラーなど、表記に関するショートカットも自分で作成して効率化。Cubaseを映画音楽製作に利用されている理由として、動画の再生機能とともに、この譜面製作機能も挙げられています。今後のCubase に期待する機能としてもスコア周りの改良について言及されていました。
印象的だったのは、インタビューで、今後作曲家を目指す人へのメッセージ。「自分もまだ勉強中の身だから」と断られた上で、「Cubase は従来の通りの利用もできるので、『こういうものを作りたい』というイマジネーションを持ち、自分の感覚を信じて、あくまで『道具』として利用するのがいいと思う」とのことでした。


ずいぶん駆け足になってしまいましたが、The Steinberg Day 2009 のご紹介、いかがだったでしょうか。実際のところ今回のイベント、実際のソフトや機材にも触れられ、新しい機能・ハードの紹介から識者のトーク・インタビューまで様々な知識が得られ、非常に充実していたと思います。個人的には、新ソフトの登場時以外のタイミングでも、今回のトークセッションのような講義・セミナーに絞った形のイベントもあれば、ぜひ参加したいなーと、勝手に期待してしまいます(笑)。貴重な体験、講演をありがとうございました。